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直腸は大腸のいちばん肛門に近い部分で,肛門から約20cmの腸管のことをいいます。
直腸がんの手術は大腸がんの中でも特に難度が高いといわれています。
それは狭い骨盤の中に,膀胱,前立腺,子宮,膣などの泌尿器や生殖器に囲まれて,直腸が存在するからです。
さらに,直腸に接するような形で,排尿や性機能に重要な自律神経系や排便に重要な肛門括約筋が存在することも,直腸がんの手術を困難にしている理由です。
手術時に,これらを傷つけてしまうと排尿障害,性機能障害,排便障害などの後遺症をおこしたり,人工肛門をつくらなければならなくなります。
直腸は,直腸S状部(RS),上部直腸(Ra),下部直腸(Rb),肛門管(P)の4つの部分に分けられます(下図参照)。
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直腸局所切除術 |
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早期の直腸がんの内視鏡的切除方法は,早期結腸がんの方法と同じ方法で行われます。
ただし,下部直腸と呼ばれる肛門に近い部位早期の直腸がんでも,腫瘍が大きい場合ですと内視鏡治療による切除が困難なときがあります。
そのような場合には腰椎麻酔をおこない,開肛器という器具を使って肛門を拡張し,肛門からメスを入れて,リンパ節郭清はおこなわず,がんがある腸管だけを切除します。
これを経肛門的直腸局所切除術(経肛門的切除)といいます。ただし,最近では内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が行われるようになり,切除が可能な場合もあります。
また,それよりも奥の直腸にがんがある場合は,仙骨の横から皮膚を切開し,骨盤内にメスを入れ,がんを切除する経仙骨的直腸局所切除術(経仙骨的切除)が行われることがあります。
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前方切除術 |
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経仙骨的切除が背中側からメスを入れてがんを切除するために後方切除術と呼ばれているのに対して,腹部側から切開してがんを切除する手術を前方切除術と呼んでいます。
直腸がんの外科的切除は一般的に腫瘍部より上方向を広く切除し,下方向はそれより狭い範囲で切除します。
その理由は直腸付近のリンパ節におけるリンパ液は,多くの場合上部と向かって流れるため,がん細胞も上部方向に広がりやすくなるからです。
そのため,直腸S状部(Rs)のがんでは,がんの下方を5cm程度,上方を10cm以上切除する「高位前方切除」が行われます。
上部直腸(Ra)のがんでは,同様の方法で「低位前方切除」が行われます。
直腸では,側方向にもリンパ液が流れているため,下部直腸(Rb)や肛門管(P)の進行がんでは側方骨盤リンパ節転移が10%程度あります。
そのような場合には,側方骨盤リンパ節郭清も実施されます。
切除後は,専用の吻合器を使って結腸と残された直腸の両端を吻合します。
前方切除術に要する時間は,およそ3〜4時間程度です。
従来は下部直腸のがんの場合,手術後,多くは人工肛門になっていました。
これは直腸の場合,切除後の吻合が骨盤内の位置で行わなければならず,手縫いでの吻合が困難であったことが理由です。
1970年代に自動吻合器が出現し,手の届きにくい場所の吻合も可能になることで,現在では,下部直腸のがんでも,ほとんどは人工肛門にならずにすむようになりました。
さらに,大腸がんの手術においても,QOLを重視するようになったこともあり,現在では,直腸がんの肛門温存手術は,80〜90%程度まで実施されています。
肛門から2〜4cmしか離れていないがんに対しても「超低位前方切除術」や「内肛門括約筋部分切除」が行われ,肛門が温存できるようになりました。
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